炭疽病
野菜類に発生する炭疽病(Anthracnose)はColletotrichum属の病原菌によって起こる病害で、宿主野菜類や果樹類の葉、茎、枝、果実などに病斑を生じ、組織のえ死、腐敗や乾枯などが起こり、のちに病斑上に伝染源となる分生子層が作られる。時には子のう殻(Glomerella属)が作られることがある。
炭疽病はもともと細菌類として人や家畜の病害で「黒いかさぶた状の」と言う意味があり、昨年アメリカで起きた同時多発テロ騒動のあと生物テロとして世界を恐怖に陥れた炭疽病の病原は細菌である。
ところが、ここで述べる野菜類や果樹類の炭疽病の病原は、細菌ではなく糸状菌(かび)で人や家畜の炭疽病菌(細菌)の病原とは異なっている。
野菜類に発生する主な炭疽病としては、ハクサイ、カブ、ダイコン、コマツナ、サトウダイコン、チンゲンサイ、漬菜類、インゲン、トウガラシ、ピーマン、ウリ類、エダマメ、ネギ、タマネギ、ニラ(木曽ら未発表)ホウレンソウなど種類が多い。
イチゴ炭疽病はとりわけ問題の病害として関心が高い。
発生の生態
病原菌
Colletotrichum属とGlomerella属を併せて解説する。
- 菌糸は角皮下、表皮下、あるいは表皮細胞内や表皮下に分枝して拡がり、暗褐色で隔壁があり、ところどころで分生子層を形成する。
- 分生子層は初め表皮細胞内や表皮下にあり、のちに表皮、角皮を破って作物体の表面に現れ、レンズ形で黒色を呈し、その中に多くの分生子を形成する。
- 分生子は先端が、やや尖り少数の隔壁をもった剛毛(Seta)を形成する場合がある。
- 分生子は楕円形、長楕円形あるいは紡錘形で両端が丸いか、または鎌形ないし三日月形で両端が尖る。
- いずれの分生子も単細胞、無色であるが集合して淡紅色または白色となり、粘質を帯びる胞子塊となる。
- 胞子は発芽すると貫入菌糸が角皮を貫通して作物体に侵入する。
病徴
- 葉では病斑と健全部との境が、暗褐色か黒褐色ではっきりしていることが多く、円形で、罹病部は白色、淡褐色、赤褐色など作物の種類によって特徴のある色となる。
- 肉厚の葉では病斑部が少しくぼむことがある。病斑が不定形に大きく広がると健全部との境界ははっきりしなくなる。
- 茎や果実の病斑は、楕円形ないし不定形となり病斑部がくぼんでいる場合が多い。
- 分生子盤は病斑内に小黒点状、白色や淡紅色(サーモンピンク)あるいは黄褐色の小粘塊状、ときに黒色すす点状に現れ、肉眼でも炭疽病であると判定できる。
- 子のう殻は病斑の周囲に形成されるか、あるいは病斑上に不規則に散在し小黒点状である。
生活様式
- 病原菌は菌糸または未熟な分生子層の状態で越冬して、翌春ここに分生子塊を形成し雨の飛沫やときに雨水の流れによって運ばれ一次伝染源となる。
- 分生子塊が乾燥すると風によって飛散して作物に侵入する空気伝染もある。
- 高温と多雨が伝染と発病を助長し、普通は梅雨期から激しく発病するようになる。新葉、若い茎や果実などに侵入発病すると、ここに形成された病斑上に生じた分生子盤から分生子塊または分生子の二次伝染が続き、まん延する。
- 罹病種子が播種され発芽すると立ち枯れ症状を起こし、分生子層を形成し、その上の分生子が二次伝染することがある。
- 分生子は昆虫の体表に付着して運ばれ伝染することもある。
- イチゴ炭疽病では子のう殻が形成されることがあり、これが被害残渣とともに土壌中に残存して次年度の伝染源となることが知られている。
防除のポイント
耕種的防除
- 被害物や残渣を除去し栽培環境の浄化に努める。
- 高温、多雨の季節では発生と蔓延が旺盛となるので野菜によっては施設栽培や雨よけ栽培に努める。
- 飛来昆虫の防除を徹底する。
- 窒素過多栽培を避ける。
- 罹病種子は立ち枯れや二次伝染源となるので無病種子を播種し栽培する。
薬剤的防除
- 発病後の薬剤防除は、困難を伴うので発病初期を的確に捉えて早期防除に努める。
- ネギ、タマネギ、ニラなど薬剤が付着しにくい作物では必ず展着剤を使用して葉に薬剤を十分付着させる。
- 防除薬剤の登録をもつ野菜類では安全使用基準を厳守して正しく効果的な散布を行う。
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