べと病
べと病菌によって起こる病害は、和名でべと病、英名でDawny mildewと言い、ツユカビ科の数種の属の糸状菌(かび)によって発生する伝染性(空気および水媒伝染)の病気である。
これらの属はそれぞれいくつかの種を含んでいるが、わが国で野菜類に被害をもたらす代表的な属はプシュウドペロノスポラ(Pseudoperonospora)、ペロノスポラ(Peronospora)、プラズモパラ(Plasmopara)、ブレミア(Bremia)の4属である。
べと病菌は絶対寄生菌で生きた野菜の細胞でのみ生活でき、つまり人工培養が出来ない糸状菌である。
野菜類を侵す主なべと病菌は、ウリ類のべと病菌、アブラナ科野菜類のべと病菌、ネギ、タマネギのべと病菌、ワサビべと病菌、シュンギクべと病菌、ミツバべと病菌、ホウレンソウべと病菌およびレタスべと病菌などがある。
発生の生態
病原菌
- べと病菌は栄養繁殖器官として菌糸、分生子(遊走子のう)を被害部上に形成する。外見状はこれらが被害部(病斑)上に霜状の標徴として見え、これを顕微鏡で観察すると、気孔から突出した分生子柄と分生子(遊走子のう)が特徴的に観察できる。
- 病徴の末期や不良環境に遭遇すると、病組織内に耐久体としての卵胞子を形成し、越夏、越冬して第一次伝染源の役目を果たす。
- キュウリとカボチャを侵すべと病菌では、キュウリ菌はカボチャを侵さないが、カボチャ菌はキュウリも侵すといわれている。最近カボチャ菌がキュウリを侵し、被害が大きく問題を起こしている栽培地がある。
病徴
- 野菜類によって病徴は多少異なるが、一般的には葉に輪郭が不鮮明で退緑色の斑紋を形成し、次第にこれが拡大して多角形で灰白色病斑となり、新生病斑や多湿環境下では病斑裏面には灰白色霜状のかびを生ずる。後にこれは黒色~紫黒色の不整形斑となる。
- ダイコンでは地際部に接した根部表面に鉢巻状の横縞状の病徴を発現することがある。
- ネギやタマネギではべと病斑が末期症状になると病斑上にアルタナリア属菌が二次寄生して菱形状の黒斑病様の症状となる。
生活様式
- べと病菌の分生子発芽法には2種類があり、すなわち、ウリ科野菜類の分生子発芽は遊走子発芽、他の野菜類の分生子発芽は直接発芽の菌糸発芽である。
- 前者の遊走子は気孔感染、後者の菌糸発芽は気孔と角皮感染である。
- 分生子の発芽適温は概ね10℃前後、発病適温は(病徴発現温度)13~20℃と比較的低い。そのため、盛夏の時期の発生は少ない。
- 宿主に侵入した病原菌は細胞内に吸器を作り養分吸収を行う。
- 不良環境下や病徴の末期には、組織内に耐久器官である卵胞子を形成し、これが第一次伝染の役目を果たす。
- ホウレンソウべと病では卵胞子が種子伝染としての主要な役目を果たして伝染や発生に関与している。
- 分生子の形成は温度、湿度、光線などの発病環境や宿主の新鮮度などに影響されるが、これらの条件が整うと繰り返し分生子が形成されて伝染、まん延を起こす。
防除のポイント
耕種的防除
- 罹病作物や被害残渣の除去。
- 無病で健全な苗、種子の使用。
- 多湿条件の排除(密播、密植やビニールハウス、ガラス室での栽培では多湿で発生が増加するので、苗床での間引き、本畑での疎植、通風と採光を図り、排水をよくする)。
- ホウレンソウなどの卵胞子形成野菜では輪作を徹底する。
- 土中の病原菌が跳ね上げられないように、敷藁やマルチをする。
- シュンギク、ホウレンソウなどのハウス栽培や雨よけ栽培では頭上潅水は行わない。
薬剤的防除
- べと病に登録のある農薬は、シグナムWDG(ピラクロストロビン・ボスカリド水和剤)、ジマンダイセン水和剤(マンゼブ水和剤)、ストロビーフロアブル(クレソキシムメチル水和剤)、ダコニール1000(TPN水和剤)、ホライズンドライフロアブル(シモキサニル・ファモキサドン水和剤)、ライメイフロアブル(アミスルブロム水和剤)などがあります。対象作物に登録があるものを選んで、正しく予防散布しましょう。
- 発病後の防除は極めて困難なので、発病の恐れがあるときは予防散布に努め、また、発生初期に防除時期を失しないように散布しましょう。
データ作成2013/4/16
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