種苗事業部 産地と栽培情報

2017年

【埼玉県狭山市】武蔵野交配「粋醐味」、「冬大賞」を栽培して

2つの新品種に期待大!

埼玉県狭山市
栗原 義保

【冬大賞】葉色が濃く、立毛が美しい

地域の概要

 「狭山茶」で有名な狭山市は埼玉県の南西部に位置し、市全体が武蔵野台地上に位置します。南西から北東にかけて流れる「入間川」は市内に地名として存在するほど市のシンボルとなっています。都心からも近く、利便性に優れるため高度経済成長期には東京近郊のベッドタウンとして人口が急増しました。
一方で農業も盛んに行われており、近隣の川越市、所沢市などと共にホウレンソウ、サトイモ、カブ、ニンジンなどの全国有数の露地野菜産地になっています。

チンゲンサイ栽培の経緯

私がチンゲンサイを作り始めたのは約20年前になります。それまではトマトをメインに栽培を行っていました。トマトは収穫物を20kgコンテナで持ち運びをするため、妻への負担が大きくなっていました。そこで、トマトより軽量な作物を模索し、チンゲンサイを作付するに至りました。

 

チンゲンサイ栽培の概要

連棟ハウス2棟、合計4,620m2でチンゲンサイを中心に、トマトも栽培しています。
労力は私たち夫婦、息子夫婦、パートさん3名の合計7名です。チンゲンサイは年6回転で、季節により3品種ほどを使い分けています。盛夏期である7月~9月末頃までの収穫では暑さで作りにくいため、雑草・病害対策のために土壌消毒を行っております。そのため、8月上旬播種・10月上旬収穫の作型から始まり、その後順次播種、翌6月末頃収穫までが栽培期間となっています。
基本的に299穴の発砲スチロールトレイに真空播種機で生種子を1粒播きし20日~30日前後育苗したのちに定植しています。以前は直播したこともあったのですが、根張りが強く収穫時に作業性が悪かったことと、欠株による歩留り低下を防ぐために移植栽培を行っています。
7条もしくは6条の白黒マルチを使用しており、以前は白と黒を季節により使い分けていましたが、近年季節問わず白マルチの方が生育は良いと感じています。
また根こぶ病などの病害を増やさないために、収穫をする際には根ごと引き抜いて根を切り取り圃場外に処分するようにしています。

 

「冬大賞」「粋醐味」に期待

「冬大賞」は2014~2015年の秋冬で初めて栽培を行いました。栽培期間中に従来品種と比較して葉色が非常に濃いことに驚きました。冬用品種というと生育が旺盛なタイプが多く葉色が淡くなりがちなのですが、「冬大賞」は従来品種と比較するとはっきりわかるほど葉色が濃いです。また収穫時の作業性も良いと感じました。
葉柄がしなやかで従来の品種よりも軸割れがしにくいです。試作の際に一番助かったのは、その年3月~4月頃に従来品種は抽苔が起こり収穫することが出来なかったのですが、「冬大賞」は抽苔することなく収穫が出来たことです。安定した晩抽性を持っているので厳寒期~春先にかけての栽培も安心できます。黒腐病などの病害もやや発生しにくい印象があります。

 

粋醐味は2014年秋に初めて試作を行いました。こちらの品種は以前、栽培していた「春賞味」の改良版ということで期待していました。「春賞味」は一時期栽培していましたが、丈が短くなる傾向があり品種を切り替えてしまっていました。一方「粋醐味」は丈も十分確保でき、葉色・軸色の濃さ、ボリュームも申し分ありません。また、従来品種は11月下旬以降のやや低温になる頃に尻が強く張ってしまいFG袋に入れにくく作業性が悪かったり、形状が気になったりしていましたが「粋醐味」はそのようなこともありません。

 

「粋醐味」は10月頃と5月頃の秋・春収穫、「冬大賞」は12月頃~3月頃までの冬期収穫で使用しており、安定してチンゲンサイを栽培することが出来ています。11月頃と4月頃は「白さび病」が多発する時期なのでその頃だけは当病害に強い他品種を一時的に栽培します。


冬大賞の良い点

(1)葉色・葉柄色がとても濃く、荷姿が良い
(2)抽苔しにくく、安定した晩抽性がある
(3)葉柄がしなやかで折れにくく、作業性が良い

粋醐味の良い点

(1)葉色・葉柄色が濃く、ボリュームがある
(2)葉と葉柄のバランスが良く形状が美しい
(3)低温期にかかっても形状が安定している

新品種に期待すること

やはり一番要望したい特性は「耐暑性」です。現状の夏用品種では夏季に良いチンゲンサイを作ることが困難です。チップバーンや節間伸長の発生、葉柄幅が細くなってしまうなど形状の問題などが大きいです。猛暑の中でもがっちりと出来る品種があれば助かります。
また、今回の2品種には白さび病への耐病性がないため、多発時期には他品種に変える必要があります。もし白さび病への耐病性があれば通して使用することできるため、そのような品種もあれば販売量が伸びるのではないでしょうか。
「粋醐味」「冬大賞」には期待しています。きっとヒット商品となるはずです。