種苗事業部 産地と栽培情報

2017年

【長野県塩尻市】カット加工用のニラ生産に取り組む

㈱武蔵野種苗園のニラ品種を使い分けて、安心安全の国産野菜にこだわる!

長野県塩尻市
株式会社 信生
代表取締役 野本 孝典

株式会社 信生 農事部の皆さん

地域概要

塩尻市は長野県のほぼ中央で、松本盆地の南端に位置しています。地形は扇状地形で、面積は約290.18㎞2を有しています。標高は650~750mという高冷地で、年間の最高気温は35℃、最低気温は-11℃と寒暖差が大きく、年間降水量1,252mm、年日照時間2,373時間という農業に適した気象条件を有しています。
また、江戸時代から中山道や北国西街道の宿場町として、交通網の要となり栄えてきました。野菜はレタスを中心として、果樹はブドウ・ナシ・リンゴなど、都市近郊型の生産団地として脚光を浴びており、全国有数のワインの産地としても知られています。

㈱信生の紹介とニラ生産の歩み

2008年、中国産冷凍餃子の残留農薬問題による食の不安が発端となり、国内産野菜の需要が増加しました。当時冷凍食品の餃子などを生産販売していた親会社の美勢商事㈱も、国産野菜を使用していましたが、原料にら調達の不安から㈱信生の農事部にニラの生産を提案しました。ここから㈱信生のニラ生産が始まりました。
塩尻市は標高が高く、畑作地の土質も水はけの良い場所が多いため、野菜の生産が盛んな地域です。しかし、冬は最低気温-10℃を下回る事や積雪もあるため、ハウス栽培でも温度確保が難しく、野菜全般の生産は春~秋が中心となります。ニラも4~11月にかけての生産となり、年間60tの生産を行っています。年々需要が増加しており、春先のニラ収穫まで在庫を確保することが難しくなってきているため、今年は40aから70aへ面積を拡大して増産を図っています。
㈱信生の農事部が所有する圃場では現在8名がニラ圃場の育成管理と刈取りまでの労務を担当しております。彼等の多くが農業未経験で定年退職後の自由な時間をこの作業に参加する事で有効に活用しております。この他に委託生産者は5名おり、計13名でニラを生産しています。

 

栽培概要

生産開始から暫くは手探りで生産を行っていましたが、地域の種苗店や㈱武蔵野種苗園に相談して品種の構成や生産方法を変えていき、3年でようやく安定生産が可能になりました。
現在は「パワフルグリーンベルト」を中心に「ワンダーグリーンベルト」、「ミラクルグリーンベルト」を組み合わせて栽培しています。他社品種と比べても分けつが多過ぎず、2年株・3年株でも品質が良く、収量も増加した為です。品種によって抽苔の時期・生育スピードに差があるため、同時期に定植しても順に捨て刈りや花刈り、収穫作業をすることができます。メインになるのは「パワフルグリーンベルト」ですが、4月から6月ごろまでの生育速度と幅の広さや重量など、収穫物の品質が高いため気に入っています。各品種6回以上は収穫を行い、3回ごとに鶏糞と肥料で追肥し、11月まで収穫して収穫量を確保しています。
定植は、8月の上旬に株間25~30㎝×条間60㎝と管理機が入り易いように行います。「ミラクルグリーンベルト」と「ワンダーグリーンベルト」は分けつ後の苗を3~4本、「パワフルグリーンベルト」は分けつが少ないため4~5本定植しています。

野菜加工工場アルプス・アグリファクトリー

収穫後のニラは圃場の近くにある㈱信生の野菜加工工場「アルプス・アグリファクトリー」に出荷されます。搬入されたニラは水洗い後にカット機にセットし、カットされたものをオゾンで殺菌、脱水後に10㎏ずつ袋詰めして冷凍保存となります。
この時、品種ごとに加工特性が異なるため注意しています。特に「パワフルグリーンベルト」は「ワンダーグリーンベルト」と「ミラクルグリーンベルト」に比べ、厚みや幅があり、硬く重く仕上がるため、生産現場や市場では好評です。しかし、加工現場では逆にカットしづらく、カット時に出てくる汁の粘度が高いため排水溝が詰まってしまいます。加工後の収量は良いですが、生産現場と加工現場で求める特性が違うので、加工のしやすい新しい品種にも期待しています。
この工場では、にらは最大1t/1日の加工能力があり、他の野菜品目の加工も行われています。

 

省力化を考える

加工食品メーカーや生協など各方面から注目され需要が増加してきたこともあり、面積・収量の増加を検討していく中で、人員不足が問題として挙げられました。そのため、生産者の募集とともに作業機械の導入による省力化の検討を行っています。
一例として、全国でも珍しい電動ニラ収穫機を導入し、研究している事が挙げられます。しかし、回転刃の切れ味、地際刈り取りの難しさ、ベルト部の収穫物巻き込み、パワー不足など課題が多くあります。
現在は課題の改善が進んでおらず、使い慣れた鋸刃の収穫鎌や㈱武蔵野種苗園が販売している直刃のステンレス鎌などを利用しております。特にステンレス鎌は軽くて切れ味が良いため力が要らず、洗い易く錆び難く、研げるので切れ味が落ち難く使い易いと好評です。
今まで通りに生産を行なうと今年の面積(70a)が限界なので、省力化を図りながら、新規に生産者を募集し、面積と生産量の増加を目指したいと思います。


無農薬で安全なニラを

ニラ生産の発端が中国産餃子の残留農薬問題であったことから、現在㈱信生では全国でも珍しい無農薬栽培を行っています。そのため、雑草の除去に苦心しており、捨て刈り時や収穫時には雑草も同時に刈払い機で深めに刈り、こまめに圃場に入っては抜き取りなどを行っております。しかしその甲斐もあって、現在では点心などのニラ加工品だけではなく、都内の生協などから産直販売用としても注目を浴びています。今後もこの取り組みを続けていきたいと思っています。