種苗事業部 品種特性と栽培のポイント

2021年

小カブの栽培

 

-小カブの沿革-

 

 

カブは日本人にとってなじみ深い野菜の一つでありますが、もともと日本原産の野菜という訳ではなく、温帯ヨーロッパがその起源になっていると考えられています。とはいえ日本ではもっとも古い野菜の一つであり、歴史的には万葉の時代まで遡ります。一般的に栽培が始まり、食文化として広まったのは江戸時代の頃で、さらに明治から令和へ時代が移り変わるとともに面積も拡大し、千葉県、埼玉県といった関東圏の地域から青森県、徳島県など幅広い地域で現在の小カブの産地が形成されています。産地の拡大に伴って多くの系統、品種が分化し、栽培技術の向上も相まって小カブの周年栽培が可能となり、スーパー等で常に新鮮な青果物を見かけるようになりました。ここ数年で大きな作付面積の増加はないものの、重量野菜からの転換で作付けを開始する生産者も増えてきており、作付面積が減少してきている品目がある中で、小カブの全国的な作付面積は横ばいから微増傾向を維持しています。
身近な野菜とはいえ、食べ方といえば浅漬けや酢漬けといったお漬物としての利用をイメージする方が多いですが、サラダ、炒め物、煮物、和え物等、様々な方法で楽しめるのがカブの良いところで、最近ではレシピ本を開くと必ずと言っていいほど小カブのアレンジレシピを見かけるようになりました。
また、古くからカブを生産している産地では、連作の結果根こぶ病や萎黄病といった病害が多く見られるようになり、さらに葉も食用として利用する性質上、白さび病やべと病といった病害も非常に問題となっており、これらの耐病性品種が望まれています。
そういった要望に応えるため、気温の高く推移する春~秋用の品種としては根こぶ病耐病性品種である「碧寿」や「ゆりかもめ」、葉の病害が目立つ秋~春用の品種としては根こぶ病に加え白さび病にも耐性を持った「雪牡丹」、「万寿」といった品種を開発しており、産地においても高い評価を頂いています。
その他用途に応じて生産者のご要望にお応えできるようにラインナップを取り揃えており、今後も引き続きご期待に応えられるよう品種改良に力を入れていきます。今後ともぜひお引き立てくださいますようお願い申し上げます。

 

―小カブの特性―

 

○温度

小カブは冷涼な気候を好み、発芽は5℃以上、30℃以下で可能であるが、15~20℃が最適温度である。茎葉の成長は6~40℃で可能だが25℃~30℃で最も早くなる。根球の肥大は15~20℃が最適である。8℃以下、28℃以上では肥大が遅くなる。低温にも強く-2℃程度でも枯れないが、5℃以下の低温に数週間遭うと花芽分化を起こし根球に障害を受けやすくなる。このため暖地では主に秋冬、冷涼地では雪解け後から晩秋まで栽培され、平坦地では被覆資材を利用して周年栽培が行われている。

 

 

○水分

比較的少ない条件でも発芽するが、冬と夏の栽培では乾燥しやすいので本葉4~5枚くらいまでは土壌を乾かさないことが良品生産の重要なポイントとなる。一方、特に夏季の収穫時期においては、乾燥から過湿に急激に変化すると病害や裂根などが発生しやすくなるため注意する。

 

 

○根の肥大

肥大した胚軸部と根が、球と呼ばれ食用にされている。胚軸と根は内部形態が明らかに異なるが、生育に伴い区別がつきにくくなる。側根を生じる部分が根となり、胚軸からは側根は生じない。根の肥大初期に乾燥し、その後高温や低温に遭遇すると障害根の発生が助長される。

 

 

○裂根

最大の原因は生育初期の乾燥となる。根の発育が悪くなると、周皮(青果物の一番外側の皮になる部分)の老化が早まるため比較的早い段階で周皮の柔軟性が低下しやすくなる。よって球の外側の生育は緩慢になるが、その一方で、球内部の細胞分裂と増大は進み続けるため球の内外で成長のバランスが崩れてしまい、結果的に裂根の発生が起こりやすくなる。

裂根の発生を防ぐには、初期から順調に生育させるとともに、肥料切れ、乾燥、生育後期の急な肥大を避ける水分管理を十分に行うことである。

 

 

○ス入り

生育の中期以降になると、地上部の生育は停滞へ向かっていくが地下部は球肥大のために発育を続ける。そのため、生育後期になると地下部の栄養要求量が地上部の栄養供給量を上回ってしまい、地下部組織の細胞死へと繋がっていく。このような状態になると球内部の組織が白い海綿状になることがあり、これをス入りと呼ぶ。

ス入りを回避するためには適期収穫を心がけることが重要となる。

 

 

―小カブの作型―

 

小カブの栽培は消費需要に伴って年間を通して行われるようになった。新たな特性を持った品種育成も進んでいるが、栽培技術の向上とともに作型の分化が進み、春、夏、秋、冬の4作型に大別されるようになった。

 

 

―栽培の要点―

 

 

1) 春まき栽培

 

この作型は中間地の1月上旬~3月中旬まきで4~6月どりハウストンネル栽培と、冷涼地や中間地の4月上旬~5月まきで5~7月どりの露地栽培となる。トンネル栽培には白鷹、CR雪峰、しろかもめ、白馬、白寿、万寿、雪牡丹が向き、露地栽培には玉里、碧寿、ゆりかもめが適応する。

 

○圃場の選定と準備

日当たりの良いところで土壌が保水力に富み、排水良好な地力のある畑を選ぶ。収量向上のために普段から土づくりには注意を払い、年一回堆肥を10a当り2000㎏ほど投入して畑づくりをしておくことが望ましい。

肥料は元肥主体で有機質に富んだものを7~10日前までに全面施肥して土づくりをしておく。砕土、整地は丁寧に行い、発芽不良や裂根の防止に努める。

 

○施肥量

播種時期が1月~5月とかなり幅があるため時期によって適正な施肥量が異なる。一般的に低温期には多く、高温期には少なめに施肥を行う。中間地の1~2月まきでは10a当り窒素15㎏、リン酸20㎏、カリ15㎏程度を標準とし、地力や産地の実情に合わせて加減し、適切な量を施用する。

4~5月まきでは収穫期が高温となるため、窒素肥料を多用すると肩割れや球の変形、葉の徒長が発生しやすくなるため注意が必要である。特に白鷹、CR雪峰、碧寿は肥料に対して敏感に反応する特性を有しているため、これらの品種を使用する際には施肥量は控えめにする。また、球の肥大や形成にはリン酸の影響が大きいため、特にリン酸吸収係数の高い土壌ではリン酸の補給を注意して行うようにする。土壌のpHは6.0~6.5が適正である。

 

○播種床

近年は短時間にまとまった降雨が見られることが増えてきたため、播種時期に関わらず10㎝程度の高うねを作ることが望ましい。床面はシードテープ、機械まきのいずれでも平らに整地し、発芽の条件を整えることが大切で、土壌水分にも気を配る必要がある。

 

○播種

播種量は機械まきで10a当り2~2.5dl、シードテープで2dlが標準となる。1回の播種量は出荷労力に応じて決定することが大切で、5~7日感覚ごとに随時播種して鮮度の良いものを収穫できるように播種計画を立てる必要がある。

 

○栽植距離

トンネル栽培では条間13~15㎝、株間10~12㎝、露地栽培ではやや広めで条間15㎝、株間13㎝程度が標準となる。

 

○トンネル被覆

播種後すぐにビニールを被覆するが、1~3月上旬までは保温性のある農ビ、パンチフィルム、農サクビを使用し、3月中旬~4月中旬は不織布(割布など)を使う。4月~5月まきは寒冷紗、防虫ネットを使用する。いずれの被覆資材も裾を土に埋め込み虫害予防を徹底する。

 

○栽培管理

重要なポイントは生育初期の温度の維持と土壌水分である。本葉4~5枚程度までは寒さと乾燥に合わせない管理が必要で、トンネルの換気等も注意して初期生育が順調にいくように心がける。生育中期以降は昼夜の温度差が激しくなるため、この差を縮める意味と葉と球の生育バランスを良くするために換気をしっかり行う。発芽までは保温に努め、発芽後は茎葉の生育を促し本葉7~8枚、球径3㎝程度になったらトンネル内を25℃ほどに保ち、温度上昇に伴って換気量を多くする。外気となじませて茎葉の丈夫なものに育てることがポイントとなる。

トンネル除去のタイミングは収穫7日前位までに外気に慣らし曇天の日を選ぶようにする。外気に慣らさずに除去を行うと思わぬ寒害を受ける可能性があるため注意する。

 

○病害虫防除

キスジノミハムシの防除には登録のある薬剤をベッドづくりの時に散布し、10~15㎝程度の深さまでの土壌と良く混和する。

コナガ、アオムシ、アブラムシ等の害虫は個体数が増加すると防除しきれなくなるため、発生初期や予防的に散布する様に心がける。収穫予定日から逆算して残効の長い薬剤から短い薬剤へと移行する様にする。また、薬剤は使用基準に従って正しく使用し、同一薬剤を使用し続けると効果が薄くなるため、複数の薬剤をローテーションで使うようにする。

根こぶ病、萎黄病の対策としては、畑内の残渣除去、土づくりや輪作体系の確立、高うねによる排水の向上を考える。また、被害が大きい場合は土壌消毒や薬剤の使用も視野に入れる。

 

○収穫、出荷

品質、鮮度の良いものを狙うには短期間に収穫が終わるように計画する。特に高温期の出荷は、水切りや調整作業が重要となり、扇風機などを利用して傷みを防ぐ。

 

 

 

 

 

 

2) 夏まき栽培

 

小かぶの性質上、最も不適な栽培条件であり、栽培技術に加え品種の選定も非常に重要な要素となる。
栽培地は中間地よりも最近は冷涼地の気候を利用した栽培が増加しており、良品を市場出荷している。中間地では7月上旬~8月中旬まきで碧寿、ゆりかもめが適応し、冷涼地では白馬、玉里が特性を発揮する。

 

○圃場の選定と準備
風通しが良く、排水良好な場所を選択する。センチュウ等の虫害や土壌病害、また雑草の繁茂を防ぐために土壌消毒を行っておくことが望ましい。肥料は有機質主体とし、元肥は早めに施用し土づくりをしておく。

 

○施肥量
碧寿は肥料に敏感な品種であり、肥料を多用すると裂根しやすくなるため、施肥量はかなり控えめにする。肥料を必要とする品種を使用する際は10a当り窒素6㎏程度施用するのが標準的だが、碧寿の場合はその半量未満とする。残肥によっては無施肥で栽培する。また、白馬も茎葉ができやすいので施肥量は少なめとする。一方で、ゆりかもめは碧寿と比較すると肥料に鈍感な品種になるため、産地にあった標準的な施肥量で栽培を行う。また、玉里は肥料不足になると茎葉が軟弱になり、球の変形も早くなるため減肥のやりすぎに注意する。なお、この時期の肥料は低度化成を使用する。

 

○播種
夏季の栽培は品質が低下しやすいため、播種面積は同一播種日の青果物を遅くとも3日以内に収穫しきれるように決定し、収穫遅れが起こらないように心がける。
土壌が乾燥している際には発芽が不均一になるため、播種前後の土壌水分には十分注意する。特にシードテープを使用する際は水分のある状態で播種することが望ましい。播種後の鎮圧をしっかりと行うことも発芽を揃える上で重要となる。

 

○栽植距離
しっかりとした品質の小カブを栽培するためには条間15~20㎝、株間15㎝程度の広めの間隔に設定することが望ましい。

 

○栽培管理
病害虫防除や遮光のために、寒冷紗や割布、防虫ネット等を被覆する必要がある。被覆方法はトンネルとベタがけがある。被覆期間は25日程度が適当であるが、時期や状況によって収穫期までかけることもある。

 

○病害虫防除
この時期に最も多く被害を出すのはキスジノミハムシであり、登録のある薬剤を使用して防除を徹底することが必要になる。その他、コナガ、アオムシ、アブラムシに加え、特に乾燥年にはハイマダラノメイガによる成長点への食害も増えてしまうため発生初期のうちにしっかりと防除する。
病害対策として残渣は畑内に残さないようにする。

 

○収穫、出荷
夏の高温期は鮮度が要求されるので、収穫は小カブの水分が高まっている早朝(4~5時)に行うのが望ましく、球の土落ちも良くなる。収穫期は播種から40日以内に終わらせるようにし、調整作業も結束、水洗い後の水切りは迅速にして品質保持を図るように作業性の効率向上を目指す。

3) 秋まき栽培

 

徐々に気温が下がっていく時期になるため栽培には最も適した時期にはなるが、台風等の風水被害に注意が必要であり、圃場の排水性を確認するほか、葉に発生する病害にも気を配る必要がある。8月下旬~9月中旬まきは生育期間のほとんどが高温になる可能性があるため、特に碧寿、ゆりかもめ、白馬、玉里といった夏まきに適する品種の適性が高い。9月中旬~10月上旬まきでは弊社小カブ品種は基本的に全て適性があるものの、耐病性や品種特性などの観点から雪牡丹や万寿、白寿の適性がより高い。

 

○圃場の選定と準備
日当たりが良く、保水性があり、9月下旬~10月上旬まきでは風害の受けにくい場所を選定するか対策をしっかりと行う。また、年によっては降雨が続き播種が遅れることもあるため、施肥は早めに施して土づくりをしておき、いつでも使用できるように条件を整えておく。

 

○施肥量
秋まきの時期は気温に幅があり、播種期が1日違うと収穫期では5~7日ほどの差が出る。施肥量に関しては品種よって変更することも必要となるが、大まかな流れとしては低温期に向かうにつれて施肥量を増やしていくようにする。8月下旬~9月中旬まきでは10a当り窒素10㎏、9月中旬~9月下旬まきでは窒素12㎏、9月下旬~10月上旬まきは窒素15㎏程度を目安とし、地域や気候条件に合わせた施肥設計を立てる。弊社品種では、CR雪峰、白馬、万寿、白寿、碧寿は茎葉がしっかり出来るため、施肥に関しては1割程度減らす。

 

○播種床
冠水等の被害を回避するためにも高うねを作ることが望ましい。高さや細かな条件は産地の状況に合わせた播種床作りをする。

 

○播種
他の時期と同様に労力に応じた面積を決めて蒔く。播種日の差が暖かい時期よりも収穫期の差に大きく影響を与えるため、計画的な播種日を設定し、適期に出荷し続けられるようにする。

 

○栽植距離

気温が低くなるにつれて株間を狭くしてカブの生育が順調にいくようにする。各々時期により8月下旬~9月中旬まきで条間×株間は15㎝×12㎝、9月中旬~9月下旬まきは13㎝×12㎝、9月下旬~10月上旬まきは13㎝×10㎝を目安に栽培を行う。

○栽培管理
10月まきの遅まき栽培では、低温時期には茎葉や根球の表皮が寒さに遭いかなり傷むため、パンチフィルムやポリフィルムなど被覆資材を利用して防霜、防寒をし、品質の良いものを生産できるようにする。

 

○病害虫防除
適期の栽培のために病害虫の発生も多いため、多時期と同様に定期的に薬剤散布を行い防除に努める。

 

○収穫、出荷
収穫期の幅は他時期よりもあるが、品質の良いものを出荷するには適期に収穫し、鮮度のあるうちに出すことが重要である。低温期に入ってからの収穫では茎葉を傷めないように収穫時の気温等にも留意する。

 

 

4) 冬まき栽培

 

 

播種から収穫までの栽培期間が最も長く、厳寒期に栽培あるいは収穫する作型となる。中間地、暖地の11月上旬~12月下旬まきで2~3月どりとなる。小カブの生育温度を満たすために、大型ハウス、パイプハウス、ミニハウス、トンネル等を利用して栽培を行う。品種の特性を発揮するためにも十分な管理が必要となる時期でとなる。適応する品種は白鷹、しろかもめ、CR雪峰となる。大型ハウスの様に温度の確保がしやすい栽培環境の場合は、早生性の高い雪牡丹を利用することもできる。

 

○圃場の選定と準備
保水性に富み、温暖で排水良好な地力のある場所を選ぶ。ハウス、トンネルを東西方向に設置することや、夜間の温度が保てる資材利用等の工夫が必要である。

 

○施肥量
肥料は栽培が長期間になるので緩効性肥料を使い、窒素は硝酸態のものを用いる。肥料切れが起こると生育の停滞に加え生理障害や病害等も発生しやすくなるためしっかりとした施肥設計を立てる。10a当り窒素15~18㎏、リン酸20㎏、カリ15~18㎏を基準に各地域の地力や時期に合わせて加減をし、前作の肥料の残量を検討して決めるようにする。

 

○播種床

地温を高める点からも10㎝程度の高うねにすることが望ましい。機械まき、シードテープに関わらず発芽を揃えるために整地をしっかり行う。

 

○播種

土壌水分がある状態のときに蒔くようにすることが絶対条件である。初期の乾燥は発芽後の生育にも大きな影響を与えるため十分に気を付ける。特に白鷹、CR雪峰は初期の土壌水分に敏感なので注意する。

 

○栽植距離
シードテープ、機械まきともに発芽率、生育不良等を考えてやや狭くしたほうがうまくいきやすい。条間13㎝、株間10~12㎝程度を目安に栽培を行う。

 

○栽培管理
中間地や暖地などの比較的温暖な地域では、11月上旬まきでは播種直後から不織布(割布など)を被覆して栽培するが、その後低温期になったら保温資材としてパンチフィルム、農サクビ、ビニール等をかけて葉の生育を順調に行わせる。11月中旬~12月下旬まきは保温力の高いミニハウス、パイプハウス、中型トンネルを利用してマルチ、不織布、農サクビ等の二重または三重被覆の栽培を行い、初期生育を順調にするために本葉4~5枚程度になるまでは低温や乾燥に遭わせないように夜間の保温と土壌の適湿を保つように心がける。葉の生育が上手くいき、生育中期になると昼夜の温度差を縮めることを考えて本格的な換気作業を行う。葉の徒長を抑えて葉柄の丈夫なものを作ることが管理作業の大きなポイントになる。
なお、ハウス、トンネル内の温度は25℃程度を目安にして温度管理を行う。

 

○病害虫防除
ハウスなどで11月上旬にまいたものは生育初期にべと病等の発生の恐れがあるので、換気などに留意し、ハウス内湿度を高めないようにする。害虫が発生した際にも発生初期までに薬剤散布を行う。

 

○収穫、出荷
鮮度の点からも一斉収穫が望ましい。出荷量の関係で、前日の夕方に収穫するのも一つの手段である。収穫したものは凍らないように対策する。出荷するものは水切りを良く行い、茎葉、球を丁寧に扱い荷傷みの無いように注意する。