種苗事業部 品種特性と栽培のポイント

2019年

ホウレンソウ「ディープサマー」の品種特性と栽培のポイント

(株)武蔵野種苗園 新治育種農場
佐藤 光朗

 

はじめに

 

冷涼な気候を好むホウレンソウは高温に弱く、また長日条件下で抽苔する特性があるため、春~夏にかけての栽培はもっとも難しい時期となります。一方で、出荷量が減少するこの時期は、年間を通して市場価格が最も高くなるため、高品質な青果物を安定出荷できれば、そのメリットは大きいものになります。

今回ご紹介させて頂く「ディープサマー」は、そのような春~初夏まきで特性を発揮する品種です。生産者の方々から要望の高い晩抽性や萎凋病に強い性質に加えて、葉の色艶も良く市場性の高い品種となっています。

近年は夏の猛暑やゲリラ豪雨、連作障害などの影響でホウレンソウの栽培が以前にもまして難しくなっていますが、品種選びの参考して頂ければ幸いです。

 

品種特性

 

ディープサマー:極濃緑で作業性抜群の春~初夏まき用晩抽品種

・抽苔は遅く安定し、春~初夏まきに適する。

・草姿は立性で収穫時の葉の絡みが少なく、葉柄はしなやかで折れにくいため作業性に優れる。

・葉枚数が多い為、株張りが良く収量性が高い。

・葉色は極濃緑色で艶があり、葉柄色も濃いため荷姿が美しい。

・葉型は葉幅がやや広い中間葉。

・萎凋病に対して比較的強い。

・べと病(R1~R14)抵抗性を持つ。

 

 

ホウレンソウには生産者の好みや作型に合わせて多種多様な品種が存在しますが、一般に収量性に優れた株張りの良いタイプは作業性に劣り、草姿が立性で作業性の良いタイプは収量性に劣る傾向があります。そこで、収量性と作業性をバランス良く兼ね備えた品種の育成を目指しました。「ディープサマー」は立性感や葉柄のしなやかさといった収穫作業性に重きを置きながらも、葉数を増やすことで高い収量性を実現しました。また、広範囲なべと病レースに対応し、かつ高温期の栽培で問題となる萎凋病に対して比較的強く、栽培が容易な点も特徴です(ただし、激発圃場では発病が見られる場合がありますので土壌消毒等の対策が必要です)。

 

栽培のポイント

 

①土作り

ホウレンソウは過湿に弱く、また根は直根性が強く土中深くまで伸びます。そのため、耕土が深く排水性・保水性の良い圃場作りが大切です。計画的に完熟堆肥を施用して圃場の生物性・物理性を高めましょう。排水不良の土地では高畝にすることをお勧めします。

 

 

②播種

春~初夏の栽培では抽苔が大きな問題となります。ホウレンソウの抽苔は長日条件下で発生しますが、密植による軟弱徒長によっても助長されます。そのため、栽植密度は条間15~20cm、株間6~8cmとやや広く取り、一株一株をがっちりと育てた方が品質、収量共に安定します。また、播種機を使用する場合は、種子の粒径を確認して厚撒きにならないように調整します。

 

 

③水分管理

発芽揃いまでは土壌表面が乾燥しないように適宜灌水を行いますが、過剰なかん水は胚軸の徒長や立枯れの原因となりますので注意が必要です。播種前に十分圃場灌水し、あらかじめ土壌水分を確保することが大切です。また、立枯れを予防するため、発芽後本葉3~4枚までは潅水を控えます(ただし、過度の乾燥には注意してください)。生育中期は定期的なかん水により生育を促し、収穫5~7日からは潅水を打ち切り、株元の腐敗防止と株の充実を図ります。

 

 

④温度管理(遮光資材の利用)

ホウレンソウの発芽適温・生育適温は15~20℃で30℃を超えると発芽や生育は抑制されます。地温が30℃を超える場合は、播種2~3日前から遮光し、地温を下げてから播種します。発芽揃い後は夕方の涼しい時間に資材を除去します。盛夏期は発芽後も遮光しますが、過度な遮光は抽苔を助長する恐れがあるため、その際は遮光率30%程度の資材とし、収穫の7~10日前には遮光資材を外して光を十分当てることで品質が向上します。

 

 

栽培の注意点

 

「ディープサマー」の抽苔性は、北海道を除き標準的な作柄であれば抽苔の心配はありません。しかし、最も抽苔し易い6月中下旬の播種では、曇天が続き日照不足の場合や生育中にストレスを受けた場合(高温・乾燥・肥切れによる生育遅延や過湿による根傷みなど)に抽苔する危険があります。よって、6月まきでは直に生育させるように心がけて播種後30日前後を目安に収穫してください(収穫適期を逃さないように注意してください)。

関連情報