種苗事業部 品種特性と栽培のポイント

2015年

チンゲンサイ「MSW-1081」・「MSW-1082」の組合わせによる冬〜春栽培と「コロポックル」の品種特性

(株)武蔵野種苗園 新治育種農場
小澤 一寛

MSW-1082〉厳寒期である1月下旬でもしっかりと生育する。

 

はじめに

国内で栽培されているチンゲンサイは、その栽培の容易さから周年栽培が主流となっているため、年間を通じて安定供給が求められています。
そのため本来チンゲンサイに最も適する気候以外の作型となる冬〜春期栽培では、低温伸長性と抽苔性(開花)に問題が生じる場合があります。その問題を解決するために「冬期栽培でも低温伸長性が良く、株張りする品種」、「気候変化(気温の上昇・日長の変化)に適応できる品種」「抽苔が硬く花の上がりが遅い品種」などが産地では要望されています。
今回、当社から発表予定の2品種「MSW-1081」と「MSW-1082」は、該当作型において特性を発揮できるよう品種改良したもので、この2品種を組合わせた栽培体系によって良品を収穫することができるようになります。
また、従来の品種とは一線を画す「ミニチンゲンサイ」のカテゴリーとなる「コロポックル」もあわせてご紹介します。

品種特性
MSW-1081

春・秋蒔き栽培に適し、冬用・夏用品種の端境期に非常に作りやすい

 

「MSW-1081」はやや晩抽性の品種であるため、関東平坦地においては3月上旬から6月上旬までの播種が可能です。葉色・葉柄色共に濃く、丸葉で葉身幅があり、株張り・尻張りの良い、形状のまとまる中脚の品種です。この品種は弊社「春賞味」の改良品種となっています。「春賞味」は葉色も濃く株張りも充分なのですが、若干草丈が短いため形状のバランスの悪さを指摘されましたが、「MSW-1081」では抽苔性に関しては「春賞味」と同程度でありながら『「春賞味」よりも草丈が伸び、株張りの形質を維持』するように改良されています。


冬用品種では草勢が旺盛になり形状が乱れてしまうが、夏用品種を播種するには抽苔の怖い時期。中間地3月上旬~5月上旬。冷涼地4月上旬~6月上旬
※作型が「MSW-1082」と重なる時期がありますが、春先でより株張りを重視した収穫物を取る場合には「MSW-1081」をお勧めします。極端な早蒔きは抽苔の可能性があるため向きません。

 

MSW-1082

低温伸長性に優れ、抽苔の遅い冬用品種

 

「MSW-1082」は晩抽性の品種で、主に冬期栽培に向きます。低温伸長性があるのはもちろんですが、春期に栽培しても極端な大株にはならないため、播種幅の広い品種となっています。「MSW-1082」は関東標準で10月下旬から3月上旬の播種が可能で、比較的栽培期間の長い冬期栽培の場合、一般的な品種においても葉色が濃くなる場合がありますが、「MSW-1082」は標準的な冬用品種と比較しても葉色が濃く、葉身もあまり間延びせずに草姿がきれいにまとまります。

厳寒期で生育が停滞しやすい時期。抽苔の可能性が高い時期。中間地10月中旬~2月下旬、冷涼地3月上旬~4月下旬。
※春期栽培では開花の心配があるため晩抽性の品種が主として栽培されていましたが、その場合、草勢が強く大株になることが多いため、袋詰めがし難いなどの欠点が生じていました。「MSW-1081・1082」ともに極端に草丈が伸びることがなく、それでいて葉柄幅があり株張りも充分に得られることから荷姿がきれいにまとまります。

 

コロポックル

可愛いミニサイズのチンゲンサイ

「コロポックル」は極短脚で播種幅の広いチンゲンサイです。株が小さいうちから形状がまとまり、葉形は丸葉で葉身幅も広く草姿にもまとまりがあります。株張り・尻張りも共に良好で、従来のチンゲンサイの大きさに比べて約半分〜2/3程度の草丈になります(栽培

栽培のポイント「MSW-1081 / MSW-1082」

①播種〜育苗
直播での栽培も可能ですが、播種時の圃場準備やその後の管理作業を考えると育苗(移植栽培)を行うことが望ましいと思われます。セルトレーなどを用いて育苗後、栽培作型に合わせて定植を行います。冬〜春期では本葉4〜5枚程度の苗が定植適期となります。育苗期間が年間でも一番長い時期ですので肥切れに注意しましょう。

②圃場準備・施肥設計
慣行での施肥設計に準じた栽培で問題なく生育します。冬期栽培では本圃に定植後、充分な温度を確保する必要があります。ハウス内でトンネルを用いるなど、室内の温度を確保できるよう施設を整えましょう。

③栽植距離
15cm×15cmが標準的な栽植距離です。冬期は保温のためにマルチの使用をお勧めします。

④栽培上の注意点
それぞれ当てはまる播種期で2品種を使い分ける事で良品を収穫できます。特性表に示す播種期を参考にして栽培地域を考慮し、品種の切り替えを検討しましょう。
※なお、両品種ともに「白さび病」にはあまり強くないためにハウス内換気・薬剤散布などの管理が重要になります。

 

栽培のポイント「コロポックル」

幅広く播種出来る品種ですが、2月中の播種では抽苔の恐れがあります。また、冬期栽培では温床育苗・施設栽培を行うことが望ましいです。栽植距離は12cm×15cmを標準として、あまり栽植距離を広げない方が立性でまとまりの良い収穫物を取ることが出来ます。夏期栽培では15cm×15cm程度に栽植距離を広げることで徒長しないように意しましょう。

 

最後に

冬から春にかけてのチンゲンサイの栽培は、環境からの影響を受けやすい時期でもありますが、施設を効率良く利用した栽培管理と品種の使い分けによって良品を収穫できる時期でもあります。品種特性を良く把握して栽培体系を組むことが重要です。また、ミニチンゲンサイの「コロポックル」は、その形状が特徴的であり大きさも手頃なことから、「チンゲンサイを丸ごと、そのまま使える食材に」を目指しています。一般的な流通ではなかなか広まりにくい品種かもしれませんが、直売所などを通して徐々に勧めて行きたいと考えています。

 

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