小ネギ「若月」の品種特性と栽培のポイント
(株)武蔵野種苗園 新治育種農場
河埜 祥太
はじめに
小ネギを含むネギ類は冷涼な気候を好むため高温に弱く、特に春から秋にかけての栽培は難しい期間となります。一方で、栽培の難しいこの時期は年間の中でも市場価値が高くなる時期になるため、高品質な青果物を安定供給できれば、そのメリットは大きなものになります。
今回ご紹介させていただく「若月」は、特に春~初夏まきで特性を発揮する品種です。重量の出にくいこの時期にしっかりと重さが出るというのが特徴で、葉の緑色は特に濃く、近年のトレンドとマッチした特性を持っています。
また、加工用として徐々に作付けの増えている中ネギ栽培にも適するなど幅広い特性がありますので、品種選定の一助となれば幸いです。
品種特性
「若月」
極濃緑、極立性の小ネギ~中ネギ用多収品種
- 葉が肉厚で葉鞘部の太りも良好なため収量性に優れる。
- 葉身が硬くしっかりしているため葉折れや葉先枯れの発生は少ない。
- 葉のブルームが強く非常に濃緑な見た目が美しい。
- じっくり生育するため高温期の栽培でも徒長しzづらい。
- 耐暑性、耐寒性に優れるため周年栽培が可能だが特に春~初夏まきで特性を発揮する。
- 草姿は立性感が非常に強く基部まで真っ直ぐであり、根量も比較的少ない為収穫作業や調整作業が容易。
- 株間を広げると葉身部が太りやすく、中ネギ栽培時でもボリュームのある青果物が収穫できる。
「若月」は葉色が非常に濃緑であり、草姿も極立性であることから見た目にも美しいことが大きな特徴です。また、葉が肉厚であるため重さものりやすく、収量が稼げるというのも良い点であると考えます。一般的に収量の出やすい秋冬用品種は倒伏が起こりやすく、倒伏の起こりづらい夏秋用品種は収量が出にくいという傾向があります。「若月」は生育スピードに関しては秋冬用品種よりもゆっくりですが葉が肉厚であるため、秋冬用品種と比較すると倒伏が起こりづらく夏秋用品種よりも収量が出るというバランスの取れた特性を持っています。また、夏秋用品種の生育が止まりやすい秋冬栽培においても伸長を続けることが出来るため、春~初夏まきが最も適性の高い時期にはなりますが気温が下がってくる時期の栽培も可能です。
中ネギ栽培時においても基本的な特性は変わりませんが、株間を調整することで葉身の太りやすさを調節することが可能です。もともと葉身が太くなりやすい性質を持っているため、あまり太さを出したくない場合は従来の品種よりもやや株間を狭めて栽培する必要があります。
栽培のポイント
①土作り
小ネギは浅根性が強い品目にはなりますが、根の酸素要求量が多く過湿に弱いため、排水性の良い土作りは必要不可欠です。計画的に完熟堆肥を施用し土壌の生物性・物理性を高めましょう。地下水位が高かったり排水の悪い場所で栽培する場合は、暗渠を設置したり客土などを行い高畝にすることをおすすめします。
②播種
発芽をそろえるためにムラなく灌水を行うことが重要ですが、播種後の長時間にわたる灌水は土壌によっては種子が浮く原因となってしまい、逆に発芽揃いが悪くなる可能性があります。そのため、播種前にしっかりと灌水を行って土壌を慣らしておくことをおすすめします。また、高温期には遮光等を上手く活用し日陰を作るとともに気温が上がりすぎないようにし、低温期には保温資材等を活用し地温を確保するとスムーズに発芽させることが出来ます。
栽植距離は条間12~15cm、株間1cm程度を基準とし、高温期は1割程度薄まきし、低温期は1~2割程度厚まきすると品質の高い青果物を収穫することが出来ます。中ネギ栽培では条間20~30cm、株間1.2~1.5cm程度を基準とし、時期によって播種量を増減させるとともに、太ネギが必要な場合は株間を2cm程度にすると太りの良いネギが収穫できます。
また、種子の粒径がやや大きめであるため、播種機を使用する場合は事前に落ち具合を確認し薄まきになりすぎないように注意してください。
③水分管理
発芽揃いまでは土壌表面が乾燥しないようにこまめに灌水を行ってください。発芽揃い~本葉2枚目が展開するまでは立ち枯れが非常に起こりやすい時期になりますので極度な乾燥には注意が必要ですが灌水は抑えてください。その後は再度土壌表面が乾燥しないようにこまめに灌水を行い、品質向上のために本葉が4、5枚展開した後は徐々に灌水を抑えてください。
④温度管理
小ネギの発芽適温は15~25℃、生育適温は15~20℃であり、30℃を超えるあたりから発芽や生育が抑制されます。特に地温が高くなりやすい夏季栽培では播種の2、3日前から遮光を行うなどして地温を下げてから播種を行ってください。発芽後は気温が下がってくる夕方以降に遮光を外してください。また、特に発芽後に遮光を行う場合は、遮光率が高すぎると軟弱徒長してしまうため、遮光率30~40%程度の資材を使用するようにしてください。
栽培の注意点
- 発芽直後は生育が旺盛ではないため、元肥を極端に多くしていると根傷み等を起こしやすくなります。そのため堆肥中心の肥効が薄く、長く続く様な施肥設計にするか、本葉が展開した後の追肥中心の栽培を行うと失敗が少なくなります。
- 基本的に問題となることはありませんが、極端に圃場が乾燥していると基部の膨らみや分けつが発生する可能性があります。
- そのため全てのステージにおいて乾燥させすぎないように注意が必要です。また、移植による中ネギ栽培時に関しても移植遅れによる苗の老化によって基部の膨らみが出やすくなりますので適期に定植することを心がけてください。特に中ネギ栽培に関しては葉鞘部が2cm以上の太さになると分決を始める可能性がありますので収穫遅れにはご注意ください。
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