水耕によるニラの要素過剰および欠乏症状
高知県農業技術センター 森永茂生
高知県安芸農業振興センター 岡林美恵
はじめに
ニラは、全国で2,240ha栽培されており、その出荷量は約57,400tである(H22年度野菜生産出荷統計)。高知県は、ニラの出荷量全国1位で、25%のシェアを占めている。県の重要な品目であるニラは、6月に定植し11~6月頃まで収穫するハウス栽培が主力となっている。近年、連作ほ場を中心に葉先枯れ症状を示す障害が問題となっており、品質の低下が懸念されている。葉先枯れは古くから発生が認められているが、無機成分との関係は明らかでないことから、葉先枯れの原因究明の基礎資料を得ることを目的に水耕栽培により無機成分の過不足による影響を検討したので紹介する。
試験は、所内ガラス室で、‘スーパーグリーンベルト’を供試し、1/5,000aワグネルポットを用いて行った。培養液は、園試処方の多量要素を2/3単位としたもの(NH4-N 12ppm,NO3-N 149ppm,P 27ppm,K 209ppm,Ca 107ppm,Mg 33ppm,S 43ppm,Fe 3.0ppm,Mn 0.5ppm,Zn 0.05ppm,Cu 0.02ppm,B 0.5ppm,Mo 0.01ppm)を基本として調整した。過剰処理での設定濃度は、P過剰処理;2.5倍量、5倍量、10倍量、K過剰処理;2.5倍量、Ca過剰処理;2.5倍量、Mg過剰処理;2.5倍量、Mn過剰処理;50倍量、B過剰処理;50倍量、Fe過剰処理;20倍量、Zn過剰処理;50倍量、100倍量とし、欠乏処理では各要素を無施用とした。試験では、ほ場で一定期間養成した株を用いて水耕栽培し、現地でのニラ栽培に基づき複数回刈り取りを行いながら、障害の発生状況や生育量を調べた。
なお、要素の過不足以外で、アンモニアガス障害や急激な湿度変化による症状も再現したので併せて紹介する。
リン(P)
過剰処理
外観症状は認められず、生育量も対照と同程度であった。
欠乏処理
葉先から黄化褐変。生育量は著しく低下した。
1回目刈り取りまでは、外観症状は認められないが生育は抑制された。1~2回目刈り取り後には、葉長は短く、葉幅は狭い傾向となり、外葉(下位葉)では葉先がわずかに黄化褐変した。3回目刈り取り後には、葉長は短く、葉幅は狭くなり、外葉(下位葉)2枚が葉先から枯れ、その内側の葉数枚で葉先が褐変した。2回目刈り取り時以降の葉中P含量は、0.13~0.16%であった。
カリウム(K)
過剰処理
外観症状は認められなかったが、生育量は低下した。
欠乏処理
葉先から黄化褐変。生育量は著しく低下した。
1回目刈り取りまでは、外観症状は認められないが生育は抑制された。1回目刈り取り後には、外葉(下位葉)が葉先から黄化褐変し、最外葉(最下位葉)は枯死したものもあった。2回目刈り取り以降も同様の症状であったが、3回目刈り取り時では下方へ湾曲した葉が目立った。2回目刈り取り以降の葉中K含量は、0.29~0.54%であった。
カルシウム(Ca)
過剰処理
外観症状は認められなかったが、生育量は低下した。
欠乏処理
葉先から黄化褐変。 生育量は、P、Kよりも緩やかに低下した。
1回目刈り取りまでは、外観症状は認められず、生育量も低下しなかった。1回目刈り取り後には、中位葉の葉先は褐変し、新葉の葉先も黄化褐変して伸長が遅滞傾向となった。2回目刈り取り後には、症状が著しくなり新葉の枯死も多く見られた。2回目刈り取り以降の葉中Ca含量は、0.15~0.21%であった。
マグネシウム(Mg)
過剰処理
外観症状は認められず、生育量も対照と同程度であった。
欠乏処理
葉先から葉縁部が黄化褐変。生育量は著しく低下した。
1回目刈り取りまでは、外観症状は認められなかったが、生育量は低下した。1回目刈り取り後には、外葉(下位葉)の葉先から葉縁部が黄化褐変し、アントシアン色素の発生も認められ、枯死した最外葉(最下位葉)もあった。2回目刈り取り時の葉中Mg含量は、0.04%であった。
マンガン(Mn)
過剰処理
葉先および葉先葉縁部が黄化褐変。生育量は低下した。
1回目刈り取りまでは、外観症状は認められなかったが、生育量は低下した。1回目刈り取り後には、外葉(下位葉)の葉先および葉先葉縁部の黄化褐変が発生し、葉に螺旋状のねじれも認められた。この時の葉中Mn含量は1,295ppmであった。
欠乏処理
外観症状は認められず、生育量もあまり低下しなかった。
ホウ素(B)
過剰処理
葉先から葉縁部が白化。 生育量は対照と同程度であった。
1回目刈り取りまでに、外葉(下位葉)の葉先から葉縁部の白化が認められた。この時の葉中B含量は591ppmであった。
欠乏処理
外観症状は認められなかったが、 生育量は低下した。
特徴的な外観症状は認められていないものの、生育は徐々に抑制され、葉幅は狭く、草丈が低くなることや根の褐変,側根の伸張停止が観察された。
鉄(Fe)
過剰処理
外観症状は、認められず、生育量も対照と同程度であった。
欠乏処理
株全体が黄白色化。生育量は著しく低下した。
1回目刈り取りまでに、新葉が黄化し、それ以外の葉は淡色化した。1回目刈り取り後には、株全体が黄白色化した。この時の葉中Fe含量は,15~22ppmであった。
硫黄(S)
欠乏処理
葉先から葉縁が黄化褐変。生育量は低下した。
1回目刈り取りまでは、外観症状は認められなかったが、生育量は低下した。1回目刈り取り後には、外葉(下位葉)の葉先から葉縁が黄化褐変し、一部でアントシアン色素が発生するとともに、新葉では淡色化が認められた。症状が軽い場合には、葉縁が葉先から淡色化した。ただし、S含量の確認はできていない。
亜鉛(Zn)
過剰処理
外観症状は認められなかったが、生育量は同等かやや低下した。
欠乏処理
外観症状は認められず、生育量も対照と同程度であった。
その他
アンモニアガス障害
葉の葉先が灰褐色の水浸状となって、乾くと褐変枯死した。
急激な湿度変化
初期には、葉縁に水浸状陥没斑が発生し、その後陥没斑はノコギリ歯状に白化枯死した。