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農薬に関するご注意
 
●被害にあうと商品価値を著しく下げてしまう●
埼玉県 農林総合研究センター
生物機能担当 主任研究員
 根本 久
 
1.チンゲンサイ・コマツナの害虫防除の防除戦略  
 野菜の栽培期間は数十日から数ヵ月と幅があり、栽培期間が短いコマツナやチンゲンサイでは天敵の積極的な利用はほとんど期待できない(表1)。どのような防除戦略を組むかは、作型、地域、売り先などによって異なる。それらによって、害虫や天敵の発生様相が異なるばかりでなく、求められる品質の中身も異なるからである。

■表1 防除面から見た露地野菜の分類


 害虫の発生を抑えるためには、(1).害虫の発生の予防対策(予防システム)、(2).自分の畑にどれほどの害虫がいるかを知る方法(意志決定システム)、(3).具体的な防除法(直接的な防除手段のシステム)といった3つの対策が必要である。(1)はア)経済的許容水準、イ)予察システム、ウ)診断、エ)エキスパートシステム、オ)偵察、カ)トラップによるモニタリングからなる。(2)は、ア)病害虫雑草の対抗生物(害虫では天敵)の働きの増強、イ)耕作地の選定、ウ)輪作、エ)抵抗性品種、オ)耕種法、カ)肥培管理、キ)灌水管理である。(3)は、ア)化学的防除素材、イ)生物的防除素材、ウ)物理的防除素材、エ)使用量 や時期などの最適化手法、オ)適正で安全な処理方法、に分けられる。
 コナガの被害許容密度を見ると、キャベツでは株当たり数頭であるのに対し、コマツナやチンゲンサイでは株当たり0.1頭と数十倍の差があるので、キャベツと同じ防除手法を採用することはできない。コマツナやチンゲンサイでは、幼苗期の小さな加害も出荷時には大きな被害となって現れる(写 真1)。その上、選べる殺虫剤(登録薬剤)の種類が少なく、殺虫剤のみによる防除は困難である。 また、アブラナ科作物を連作するとキスジノミハムシが多発するので、輪作や太陽熱消毒を行うなどの工夫も必要である。
1.食用性害虫によるコマツナの被害
2.チンゲンサイ・コマツナを加害する害虫  
チンゲンサイやコマツナには、アブラムシ、コナガ、アオムシ(モンシロチョウ)、ハモグリバエ類(写真2)、カブラハバチ(写真3)、キスジノミハムシ(写真4)、ミカンキイロアザミウマ、ヨトウムシ類、ヤサイゾウムシがある。ハモグリバエ類の被害はナモグリバエの被害が中心であったが、ここ数年マメハモグリバエの被害も増加している。両種の区別 はナモグリバエ成虫には黄色い模様がないのに対し、マメハモグリバエ成虫には黄色い模様があるので簡単に区別 がつく。カブラハバチの幼虫は黒いウジであるが、一見蛾の幼虫のように見えるが、成虫はれっきとしたハチである。ハウス周辺にアブラナ科の雑草があると、そこで繁殖した幼虫が歩いて侵入するので注意が必要だ。キスジノミハムシは、背中に黄色い模様を持った小さな甲虫で、近づくとピョンピョンとはねて逃げてしまう。アブラナ科野菜を連作すると多くなる。ミカンキイロアザミウマは1o程の害虫で、葉の表面 に銀色の光沢斑を形成する(写真5)。被害が激しいと商品価値を著しく下げてしまう。ハウス周辺に花の咲く植物や雑草があると施設内へ侵入しやすい。ヨトウムシ類では、ヨトウムシ(写真6)、ハスモンヨトウ(写真7)、カブラヤガ(ネキリムシ)が問題になる。
2. 左 ハモグリバエによるコマツナの被害葉
3. 中 カブラハバチ成虫
4. 右 コマツナ葉上のキスジノミハムシとその被害
5. 左 ミカンキイロアザミウマによるコマツナの被害
6. 右 ヨトウムシ幼虫
7. 左 ハスモンヨトウ幼虫 
8. 右 害虫の侵入しにくいハウス(防虫ネット付き側窓及び肩換気口)
3.施設での防除対策  
 施設での害虫対策は、(1).害虫が発生しにくい環境作り、(2).害虫を早期に発見し、(3).農薬や物理的防除手段で直接害虫をたたくことである。使用できる薬剤が少ないことから、@は最も重要である。すなわち、施設の構造を害虫が侵入しにくいようにしたり(侵入防止)、施設内外に発生源を作らない(環境衛生)、窒素肥料の過剰は害虫を増やしやすいので肥料が過剰にならないようにする、などである。施設内に害虫が侵入しにくい構造にするには、側部や肩部に防虫ネットを展張する。防虫ネットは1mm目で通 気性の良いものを選ぶ。肩部は大きく開くようにして、内部の温度が上がらないように工夫する(写真8)。ミカンキイロアザミウマが問題になる場合は、0.8mm目の防虫ネットを使用する。ハウス周辺に雑草が生えていると、コナガ、アブラムシ、ミカンキイロアザミウマなどの発生源となるので、雑草を生やさないよう古ビニールなどでマルチする。収穫残渣もハウス周辺に放置すると、それが害虫の発生源となるので注意する。
 ハウスの大きさは作業者数に合わせた1作分の大きさとし、ハウス内の作物の発育段階がそろうようにする。ハウス内に発育段階が異なる作物が同時にあると、発育段階の進んだものから若いものへ害虫が供給されて害虫が絶えることがないので、綿密な病害虫対策が取りにくくなる。ハウスの規模を1作分の大きさにすると、収穫後のハウス内に一定期間餌となる作物や雑草が無い状態を確保する事が可能となり、結果 的に害虫も排除しやすくなり、衛生管理の面からも好ましいと言える。
 施設では輪作がしにくいので、連作すると発生し易いキスジノミハムシが問題となり易いので、太陽熱消毒を行ったり、作と作の間の期間に地面 をビニールで覆うなどして発生を抑制することも必要である。この方法は、マメハモグリバエ対策にもなるので有効である。チンゲンサイでは選べる防除薬剤の種類がいくつかあるものの、コマツナではほとんど選べる薬剤がないので、コマツナでは害虫が発生しにくい環境作りが最も重要である。
 このようにして、ハウス内の害虫の発生を予防した上で防除を行う。多くの害虫はアグロスリン乳剤で防除できるが、コナガ、マメハモグリバエ、ミカンキイロアザミウマやハスモンヨトウに対しては効果 が小さい。黄色粘着紙(写真9)は、コナガ、マメハモグリバエ、アブラムシを誘殺できるので、コマツナなど登録のある殺虫剤の種類が少ない作物では使用の価値が高い。
 コナガコンなど合成性フェロモンを使用する事もできる。性フェロモンは雌または雄が出す化学物質で、それを受け取った異性は何らかの反応を起こす。普通 は雌が出す場合が多く、それをキャッチした雄が交尾行動を起こす。コナガの雄は雌の出す匂いを辿って雌を探し出すが、多量 の合成性フェロモンを空中に漂わせると、匂いの煙幕を張られたような状態になり、雄が雌を探すことができなくなる。これが性フェロモンによる交信撹乱である。雄と雌が出会うことがなければ、子孫を残すことはできない。フェロモンディスペンサーの設置は、フェロモンが空気よりも若干重く、コナガが天井部などでも交尾できることを考え、ハウスに張られた針金などを利用してハウス内上部に均一になるように展張する。20mmのスティックタイプと長いロールタイプのものが販売されているが、施設ではロールタイプが便利かと思う。設置量 は10a当たり200mが適当だと考える。側窓などからの既交尾雌の侵入を防いだり、フェロモンが外部に流れ出さないようにするために、出入り口や側窓に1mm目以下の防虫ネットを展張することも忘れてはならない。
9 内部に黄色粘着紙を展張したコマツナハウス
10  露地チンゲンサイでの防虫ネットの利用
4.露地での防除対策  
 露地でも施設と事情は同じである。登録薬剤が少ないばかりでなく、栽培期間が短いため天敵の働きが期待しにくいので、害虫の多発期は薬剤以外の防除手段を組み合わせて総合的に防除することが必要である。多くの害虫はアグロスリン乳剤で防除できるが、この殺虫剤を多回使用すると、コナガ、ミカンキイロアザミウマやマメハモグリバエが多発することがあるので、多回使用とならないよう注意する。防虫ネットをトンネル状にして設置したり(写 真.10)、透明不織布などをべたがけして被害を防ぐのも有効である。防虫ネットをトンネル状にして設置する場合、チンゲンサイやコマツナが防虫ネットに触れないようにしたり、裾にすき間ができないように注意する。チンゲンサイではシルバーマルチを利用して、アブラムシを忌避することもできる。また、同一ほ場でアブラナ科野菜を連作するとキスジノミハムシが多発して大きな被害を出すことがあるので、露地では輪作などによる被害回避策も重要である。
 露地でもコナガコンなど合成性フェロモンの使用も有効である。性フェロモンは、微量 で空中に漂う物で、天敵を殺すことはない。交信撹乱用フェロモンを殺虫剤と同じような感覚で使うことはできない。交信撹乱がうまくいくためには、(1).十分な量 のフェロモンを空中に漂わせる。従って、風通しが良くて匂いが溜まらないところではうまくいかない。(2).フェロモンを処理した区域外から交尾済みの雌が侵入しにくいように、作物を作付けた畑よりも十分に広い範囲にフェロモンを処理する。日本のように一つ一つの畑の面 積が小さいところでは周囲の農家とうまく協力してもらう必要がある。さらに、(3).コナガの被害は幼虫の食害であるから、被害防止のためには前の世代に性フェロモンを効かせなければならないので、播種や植付け直前に速やかにフェロモンを処理する。
 合成性フェロモンは液体状であり、細いポリエチレン・チュ−ブに封入されている。20cmのチュ−ブ状のディスペンサーを、70〜80cm程の竹の支柱などにくくりつけ、この支柱をほ場に均一になるように配置する。ディスペンサーの高さは、作物の高さよりも少し高くなるようにする。効果 が安定する設置面積は、5ha以上といわれているが、畑の周囲を2m程の高さの防風ネットで囲むなどの処置をとると数十a程度のほ場でも適用が可能である。
 チンゲンサイやコマツナの害虫の天敵には捕食虫、寄生蜂や昆虫の病気がある。寄生蜂にはタマゴバチ類、コマユバチ類(写 真13〜14)、ヒメバチ類、ヒメコバチ類などがあり、病気には細菌病、糸状菌病(カビの仲間)やウイルス病が知られている。害虫の捕食虫には沢山の種類がある(写真11〜12)。チンゲンサイやコマツナで、天敵が直接的には期待できないからと言って、天敵の働きを無視した防除は得策ではない。その間接的な証拠として、天敵をより多く殺す殺虫剤を使用しているほ場では、天敵への悪影響が少ない殺虫剤を使っているところと比較して、害虫の個体数が多くなる傾向がある。天敵に影響の少ない殺虫剤や性フェロモンの利用は今後益々その重要性が増すだろう。
11 左 コナガ幼虫を捕食するゴミムシの幼虫
12 右 アオムシの幼虫を肉団子にして運ぶアシナガバチ
13 左 モンシロチョウの幼虫に散乱するアオムシコマユバチ
14 右 モンシロチョウの幼虫から脱出し形成されたアオムシコマユバチのまゆ
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